東北関東大地震の死者たちが
静かに無言の長い行列を作って
富士山に向かっている。
青白い炎が列と並んで長い長い列を
東北の被災地から富士山まで続いている。
わたしは上も下もない「空(くう)」とでも言っていいようなところにいる。
あるいはぼんやりと白い蚕の繭のようなものの中にいるような気もする。
ひとりで手を合わせて、
被災されて亡くなった方たちの冥福を祈っている。
読経などの弔いの祭式も、埋葬もされぬ者も多く、
腐乱していく者もいる。
中には不明者として縁ある人に自分が死んだことを
知ってもらえない人もいる。
そんな人たちのために無力ながら冥福を祈っていた。
ひとつ祭文を唱えるたびに
はなびらが白く美しく光って死者にそそがれる。
田舎の学校の校長のような年配の男性が
わたしが見えたようで、立ち止まり、
起立して、恭しく礼をした。
「逝く人が多いので、笠も蓑も草履も渡り銭も足りません。
持ってない人が多いのですが、
不明なまま、 用意されないままの人も多いだろうし、
そろりそろりと
皆でいっしょに逝くところです。」
そう言ってから付け加えた。
「予報では明後日雨が降るらしいですが、
明日必ず雨が降ります。
雨にはくれぐれも当たらないように。
どうしても雨の中を歩かないといけない場合は
ビニールの雨合羽を着るようにして充分にご自愛ください。」
そうして深くおじぎをして、
彼らの冥福を祈っていることの礼を言ってから
また列の中で富士山に向かって逝ってしまった。
目が覚めてから、なぜ恐山ではなく富士山だったのかと
気になって調べてみた。
富士山は古くから神仙の山、黄泉の山として
死者はそこで新たな命を得ると思われていたと知った。
ほんとうに今日は朝から雨が降っていた。
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