せつない夢を見ました。
子供の頃両親に虐待され、学校ではいい成績を修めながらどうせいいところに
進学などしないだろうと勝手に先生たちに思われて、実力に見合った学校に
進学させてももらえず、就職も恋愛もずっとそんな感じで何十年も耐えてきた女性の
年老いてからの数日の夢でした。
彼女はどんなにつらいことがあっても泣きませんでした。
泣いてもすぐにまた元通りの日常に戻って生きてきました。
年老いて、ときおり持病のために大学病院に通うことになりました。
彼女が入り口の自動ドアを通ると、なぜかいつもエレベーターが
ドアを開いて彼女が乗るのを待っています。
真正面にはご年配の男性がひとり、警備係か守衛なのでしょうか、
いました。
「あの人、患者の姿を見るとエレベーターのボタンを押して
患者がすぐ乗れるようにしてくれてるんだわ。」
日本ではレディファーストは29歳まで、と彼女は若い頃に考えました。
もうとっくにレディ扱いされず、若い金髪の男の子は
「ばばあ、どけよ」
とよろよろと歩く彼女を突き飛ばして勢いよく走っていくのが常です。
だから、彼女の姿を見たらエレベーターを1階に呼んでドアをあけてくれる、
ただそれだけの無言のやさしさがとても心に沁みたのです。
彼女にはかわいがっていた子犬がいましたが、年老いて散歩や
世話を毎日できる自信がなくなった頃、近所の人が勝手に
保健所を呼んでしまいました。
このときはあまりのひどさに泣きました。
でも数日で心に痛みを抱えながら普通に振舞うようになりました。
ある日、守衛さんが若い人に交替しました。
でもエレベーターはドアを開いて彼女を待っていました。
エレベーターは数秒誰も乗らないと1階に戻ってドアを開いているように
設定されていたことを彼女は知りました。
その夜、彼女は自殺しました。
ほんの小さな思いやりすら、もうこの世には自分のためには残っていなくて、
「ばばあ、どけよ」しかもう自分にはないことを知ったからでした。
自殺してうつぶせになりながらドクドクと血が流れて沁み込んでいるカーペットを
彼女がぼんやりみながら、誰かが発見してくれるのはどれくらい後なのだろう。
腐臭がしてからか、白骨化してからか。
そんなことを考えているときに目が覚めました。
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